「風景」から「くにづくり」へ・・・
風景計画は、地域環境マネジメントです。
世代を超えて共有される空間を、動態的にデザインする方法について研究・実践しています。
当サイトでは、北海道大学 メディア・コミュニケーション研究院、国際広報メディア・観光学院 観光創造専攻
上田裕文研究室の活動を紹介しています。
(2016年4月1日より、札幌市立大学空間デザインコースから移籍しました。)
(2020年4月1日より、北海道大学観光学高等研究センターから移籍しました。)
社会学的な調査・分析と、造園学的な計画・デザインを行い
人と自然の新たな関わり方、人々の居場所づくりから
私たちの生活世界を豊かにしていきたいです。
メールをお送りいただく際には、私の研究室をどのようにして知り、なぜ志望されたのかの理由を教えてください。 その際、私の研究分野との接点や、どのような指導を受けたいのかについても具体的にお知らせください。 そして、以下の大学院のHPを確認した上で、研究計画書と共にお送りください。 https://www.imc.hokudai.ac.jp/admissions/intl_research_students/ |
1. 樹木葬による新たな森林活用の可能性
2. 風景イメージスケッチ手法(LIST)
3. クアオルト(健康保養地)形成の仕組みづくり
4.「森林美学」の現代社会における実践
5. 文化的景観保全の仕組みづくり
6.観光まちづくりの支援
最近の研究紹介
文化的景観保全、観光まちづくりについて「北海道大学、サイエンス・カフェ札幌」での研究紹介
「景観」から「風景」へ 〜地域の人の思いに寄り添う、参加型のまちづくり〜 (1)
「景観」から「風景」へ 〜地域の人の思いに寄り添う、参加型のまちづくり〜 (2)
(動画)「みんなで考える持続可能なパートナーシップ 〜NEW NORMALにおける研究と地域〜」
樹木葬についての「札幌人図鑑」での紹介
自分自身が教員生活をスタートさせたときの興味関心を
自分が初心に返るためににもここに記しておきたいと思います。
私は、自分の専門を「風景計画」と称するようにしています。学生時代、研究室にあった本の目次に、
大先輩である本多静六や本郷高徳の専門が風景計画とあったのを目にしたのがきっかけです。
当時は、「景観」ではなく「風景」なんだという驚きがあっただけなのですが、今では、
人間や社会を通して空間の価値を考えるのに、この「風景」という言葉が最もしっくりくると思っています。
大学に勤務するまで、私は人よりも長い学生生活を続けて来ました。
住民参加や合意形成がランドスケープデザインにも求められる時代、
私はヨーロッパの町並みや農村風景が市民参加でつくられるしくみに興味があり、ドイツへの留学を決意しました。
ヘッセン州にあるカッセル大学のランドスケープ学科に所属したのですが、師事した教授が都市・地域社会学の専門であったことから、
修了時に渡された学位は当初予定していたDr. –Ing(工学博士)ではなく、Dr. rer. pol.(経済社会科学)でした。
帰国後、赴任した札幌市立大学デザイン学部では、たくさんの新しい経験をさせていただいています。
まず、地方大学の宿命でもある「地域貢献」のため、風景計画の立場から地域づくりの実践に関わる機会が数多くあります。
これまで、風景計画とは言いながらも、実際には研究活動のみに留まっていた自分にとって、地域づくりの実践は新しい経験の連続です。
ドイツで学んだ住民参加や合意形成の考えは、日本では殆ど通用しませんでした。
都市や農村のあるべき姿が人々の価値観として共有されていないため、ドイツとは住民参加の意味合いが異なるようです。
長期的な地域の将来像を描くことは、本来ランドスケープの人たちが最も得意とする分野だと思います。
そう考えると、日本ではまだまだランドスケープの分野が頑張らねばと感じます。
また、地域づくりの実践を通して、人は理屈だけでは動かないことも思い知らされています。
地域の人々が重い腰を上げるには、研究者の理屈っぽい「計画」以上に、もっとみんなに分かりやすく楽しい「デザイン」が必要です。
自分自身の生活を振返ってみても、意識や行動を変えることは簡単ではありません。
このように、留学中だけでなく、日本に帰ってきてますます日本的なもの、日本独自のしくみというものを意識するようになりました。
当初は、日本とドイツの最大の違いは、社会で共有される「公共意識」にあると感じていました。
しかし、東日本大震災後の調査や一連の議論を通して、社会よりも前に、個人レベルでの生活環境への「自己責任」にこそ問題を抱えているように感じています。
ものや情報があふれ、場所や自然までが消費の対象となった日本において、土地との結びつきや新たな関係性の再構築こそが風景計画が担う役割ではないか、
そんな思いから最近は研究活動に取り組んでいます。
そのため、物理的な空間に軸足をおいた「景観」よりも、人間の価値観から出発する「風景」からのアプローチを重視しています。
風景イメージスケッチ手法という、人々の持つイメージを、描画を用いて抽出する調査はその一例です。
人それぞれ、異なる風景を見ていることの相互理解が、参加型デザインの最初の一歩になると思います。
健康保養地づくりで着目している気候性地形療法は、自分の心拍数を目安にペースを調整するウォーキング方法です。
一人ひとりが違う早さで脈を打ち、異なる時間の流れを生きています。
自分の身体の反応を介した自然との関わりが、人間もまた命ある自然の一部であることを再認識させてくれます。
近年調査している樹木葬墓地は、墓石の代わりに樹木を用いる新たな埋葬方法の墓地です。
人間の生命からランドスケープを考えると、私たちの肉体もまた物質循環の環からは逃れられないという点で、自然環境の捉え方がずっと身近になるように思います。
科学的な知識で対象化され、私たちから分離された自然環境の身体性を回復したい。
土地との結びつきを風景を通じて変化させることで、日本独自の参加型デザインのスタイルを構築したい。
さらに、日本における都市や農村のあるべき姿を自分たちの手で描き出していきたい。
それが自分にとっての「風景計画」のゴールです
(2014年1月)